
工藤公康氏 x SHAPE Partners 鼎談(後編):優勝請負人と戦略ファームが解き明かす「勝てる組織」とは?
Sports
Interview
2026/03/09
工藤公康氏 / 顧問
名古屋電気高校(現:愛工大名電高校)を卒業後、西武ライオンズに入団。以降、福岡ダイエーホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズなどに在籍し、現役時代に14度のリーグ優勝、11度の日本一を経験。「優勝請負人」と称され、通算224勝を挙げる。実働29年にわたりプロ野球選手としてマウンドに立ち続け、2011年に正式に引退を表明。2015年から福岡ソフトバンクホークスの監督に就任し、2021年の退任までの7年間で5度の日本シリーズ制覇を成し遂げた。2020年に筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻修了。2022年からは同大学院博士課程に進学し、スポーツ医学博士取得に向けた研究および検診活動に取り組んでいる。2024年よりSHAPE Partnersの顧問に就任。
駒宮 健大 / Managing Director COO 兼 SHAPE Sports 代表取締役 CEO
東京大学農学部、同大学院農学生命科学研究科を卒業後、Boston Consulting Groupを経て、2023年にSHAPE Partnersに参画。スポーツ/エンタメ、メディア、消費財領域を中心に成長戦略、事業戦略、新規事業開発などを数多くリード。特に近年はスポーツ領域を管掌し、2025年にグループ会社SHAPE Sportsを設立、代表に就任。大学時代は硬式野球部に所属、4年時には学生コーチとしてチームの戦術・采配をリード。卒部後は母校の高校野球部のコーチ/助監督を務める。
井上 俊樹 / Principal
早稲田大学政治経済学部を卒業後、住友商事(鋼管本部油井管事業部)、Boston Consulting Groupを経て、SHAPE Partnersに参画。BCG在籍時は、主に製造業(機械、モビリティなど)のクライアント向けに中期経営計画策定、全社構造改革、成長戦略/事業戦略策定、新規事業開発、業務プロセス改善などのプロジェクトをリード。大学時代は理工学部の硬式野球部に所属し、監督兼主将を務める。鳥取県立米子東高等学校の硬式野球部出身。
福岡ソフトバンクホークスの元監督・工藤公康氏。2021年の監督退任後、農業や講演活動を通じ、その知見を社会へと還元し続けています。2024年、工藤氏は戦略コンサルティングファーム・SHAPE Partnersの顧問に就任しました。
一見すると対極にあるように見える「野球界のレジェンド」と「戦略コンサルティング」。工藤氏がSHAPE Partnersと手を組んだ背景や目指す未来について語った前編に続き、後編では優勝請負人である工藤氏と共に「勝てる組織」について深掘りしていきます。
※前編はこちら:工藤公康氏 x SHAPE Partners 鼎談(前編):「日本をアジアのメジャーに」野球の産業化への挑戦
「育つ環境作り」が勝利への一歩
駒宮: 工藤さんは福岡ソフトバンクホークスの監督を7年務められ、そのうち5度も日本シリーズを制覇したことから、優勝請負人とも言われています。勝ち続けるためにも「選手の育成」は最重要事項だと思いますが、選手を育てる上で大事にされてきたことは何でしょうか。
工藤:私は、育てていないんですよ。というのも、 よく「人を育てる」と言いますが、本来人は育てるものではなく、「育つ環境があれば勝手に育つもの」なんです。
ソフトバンクの監督時代、1軍から3軍(※現在は4軍)まで多くの選手がいる中で、自分の経験値だけで「自分の時はこうだった」と言っても、今の選手、特に若い選手には響きませんでした。それは私の経験であって、彼らが経験をしたわけではないので、いくら「ここをこう」と伝えても、わからないんですよね。
だからこそ「なぜ、これで良くなるのか?」を科学的・生理学的な根拠に基づいて説明できるよう、あらゆる知識を学びました。そうして得た学びをマニュアルとしてまとめ、誰が指導しても高い基準を維持でき、選手が納得して練習に打ち込める環境を整えていきました。

駒宮: 私は2023年~24年にかけて、ホークスの育成体制や考え方を体系化してまとめた「ホークスメソッド」の策定に関わらせていただきました。その過程で、様々な方にヒアリングさせていただいたのですが、まさにいま工藤さんが仰られていた哲学が浸透しているなと感じました。これは『ホークスメソッド 勝ち続けるチームのつくり方』という書籍でも紹介されていますが、工藤さんは監督時代に、ピッチャーはもちろんのこと、野手の1~3軍(※現在は4軍まで)においても、指導方針の一貫性を担保することに努められており、この考え方がホークスメソッドの背骨になっていると感じます。
工藤: 私の場合、自身の経験に加えて科学的な根拠や体の正しい使い方を学んだからこそ、「こう伝えたら良くなる」といった引き出しが多く、また伝えることが得意なので、選手たちも私と話すと変わるんです。ただ、私以外が「相手にわかるよう」に伝えられないと組織として強くはなれないと考えていました。
井上:たしかにそうですね。マニュアルという「標準」を作ったうえで、工藤さんが組織作りにおいて大切にされていたことは何でしょうか。
工藤:コミュニケーションですね。10人いれば、10人の育った環境があり、性格があります。褒められて伸びる子もいれば、悔しさをバネにする子もいる。マニュアルはあくまでベースなので、私は必ず個々との対話を重視します。一斉に集めて話しても、本当の悩みは聞こえてきません。
また、私は伝えた後も意識しており、伝えたにも関わらず相手が理解できていなければ、それは説明する側の責任だと思っています。なので、伝わっていないと感じたら「自分の言い方が悪かったのか、違う内容を話すべきだったのか」というように一人で「反省会」をしていますね。
井上: その「現状を正しく理解し、対話を重ねる」姿勢は、コンサルの現場でも最も重要視していることです。よく組織課題を抱える企業の方より「まず何をすべきか」という相談を受けますが、私たちが最も重要なこととしてお伝えしているのは、一貫して「現状を正しく理解する」ことです。
魔法の杖を探す前に、まずは一人ひとりと向き合い、対話を重ねる。泥臭いようですが、そこを疎かにしては組織の真のボトルネックは見えてきませんよね。

工藤: もう一つ、コミュニケーションをとる上で大切にしていることがあります。それは人間関係や会話の内容を図にすることです。これをやると、案外ボトルネックがすぐに見えてくるんです。
例えば、ある選手に大切な話をしたい時。ただ話しかけるのではなく、「どの順序で誰に話すとスムーズか」「選手と話す前に、事前に周囲のコーチにも頭出ししておいたほうがいいか」「紹介してくれたあの人には、先に話を通しておくべきか」といった人間関係の力学と順番をすべて図にして整理します。
実はこれ、図解が得意な私の妻に教わったんですよ(笑)
駒宮: 奥様のアドバイスによって、最強のマネジメントツールが誕生したんですね!
工藤さんのお話を聞いていて、状況や伝えたいことを図として整理するのは、私たちがフレームワークを活用することと通ずる点があると感じました。図解することで全員の共通理解が生まれ、意思疎通のズレを防ぐことができますよね。
工藤: 誤解が一番怖いですからね。「この前、言ったのに」という言葉は、選手との距離を遠くしてしまう。指導者としてはアウトな一言です。だからこそ、図を使って丁寧に現状を整理し、どのタイミングで何を話すのかを明確にしたうえで、コミュニケーションをとることが組織を強くするためにも重要だと考えます。
勝利の法則:スポーツとビジネスに共通するのは徹底的なシュミレーション
井上: 理想的な体制が整った後、実際に「勝ち続ける」ためには何が必要なのでしょうか。「優勝請負人」と呼ばれた工藤さんの勝ち方には、企業を勝ちに導くコンサルティングとの強い親和性を感じます。

工藤:私は、勝ち続けるために必ず「シミュレーション」をしていました。例えば、ノーアウトか、ワンアウトか。ランナーはどこにいるか。アウト一つ、状況一つで戦略は180度変わります。
駒宮: 事前に可能性のあるシナリオをシミュレーションされているからこそ、不測の事態を可能な限り減らすことができ、また仮に不測の事態が生じても冷静に判断することができる、ということでしょうか。
工藤さんの勝負哲学は、まさに経営戦略論におけるシナリオプランニングの考え方そのものですね。不確実な未来に対して感度分析を行い、勝てる確率の高いシナリオを選び取るからこそ、勝利につながる。やはり、スポーツとビジネスには共通する「勝ち方」があると感じます。
こうした共通点を基盤に、工藤さんと一緒に挑戦させていただきたいことがまだまだ沢山あります。例えば、その一つとして、工藤さんの兼ねてからの構想である「日本版Field of Dreams」の実現です。工藤さんと初めてお会いしたときにもお話しいただきましたが、改めてここに込められた想いをお伺いできますか。
工藤:畑の横に球場があって、子供たちが自由に行き来できる場所を作ることで、子供たちの生きる力を育む環境を作っていきたいと思っています。
今の日本の公園は「あれもダメ、これもダメ」と禁止事項ばかりですが、私が作りたいのは自己責任のもとで、野球も農業も遊びも心ゆくまで没頭できる場所です。大人が正解を教えるのではなく、子供たちが自分で考えて、失敗しながらも挑戦し続けられる環境。
そうすることで、私が大事にしている「生きる力」を育むことにつながると考えています。

駒宮:私たちとしても「楽しみながら学ぶ、育つ」環境を次世代に残していきたいという想いがあります。これはまさに、未来への投資だと考えていて、スポーツビジネスの枠を超えた取り組みにしていきたいですね。
SHAPE Sportsというスポーツに特化した別会社を立ち上げた理由の一つに、コンサルティングだけでなく、このようなスポーツ振興につながる活動に取り組んでいきたいという想いも強くありました。行政や企業を巻き込む複雑なプロセスは、私たちSHAPEが工藤さんの「右腕」となって、進めていけたらと思っています。
工藤: 頼もしいですね。子供たちが笑顔で挑戦できる場所をSHAPEの皆さんと一緒に一つでも多く形にしていきたいですね。

