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工藤公康氏 x SHAPE Partners 鼎談(前編):「日本をアジアのメジャーに」野球の産業化への挑戦

工藤公康氏 x SHAPE Partners 鼎談(前編):「日本をアジアのメジャーに」野球の産業化への挑戦

Sports

Interview

2026/03/02

工藤公康氏 / 顧問
名古屋電気高校(現:愛工大名電高校)を卒業後、西武ライオンズに入団。以降、福岡ダイエーホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズなどに在籍し、現役時代に14度のリーグ優勝、11度の日本一を経験。「優勝請負人」と称され、通算224勝を挙げる。実働29年にわたりプロ野球選手としてマウンドに立ち続け、2011年に正式に引退を表明。2015年から福岡ソフトバンクホークスの監督に就任し、2021年の退任までの7年間で5度の日本シリーズ制覇を成し遂げた。2020年に筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻修了。2022年からは同大学院博士課程に進学し、スポーツ医学博士取得に向けた研究および検診活動に取り組んでいる。2024年よりSHAPE Partnersの顧問に就任。
駒宮 健大 / Managing Director COO 兼 SHAPE Sports 代表取締役 CEO
東京大学農学部、同大学院農学生命科学研究科を卒業後、Boston Consulting Groupを経て、2023年にSHAPE Partnersに参画。スポーツ/エンタメ、メディア、消費財領域を中心に成長戦略、事業戦略、新規事業開発などを数多くリード。特に近年はスポーツ領域を管掌し、2025年にグループ会社SHAPE Sportsを設立、代表に就任。大学時代は硬式野球部に所属、4年時には学生コーチとしてチームの戦術・采配をリード。卒部後は母校の高校野球部のコーチ/助監督を務める。
井上 俊樹  / Principal
早稲田大学政治経済学部を卒業後、住友商事(鋼管本部油井管事業部)、Boston Consulting Groupを経て、SHAPE Partnersに参画。BCG在籍時は、主に製造業(機械、モビリティなど)のクライアント向けに中期経営計画策定、全社構造改革、成長戦略/事業戦略策定、新規事業開発、業務プロセス改善などのプロジェクトをリード。大学時代は理工学部の硬式野球部に所属し、監督兼主将を務める。鳥取県立米子東高等学校の硬式野球部出身。



福岡ソフトバンクホークスの元監督・工藤公康氏。2021年の監督退任後、農業や講演活動を通じ、その知見を社会へと還元し続けています。2024年、工藤氏は戦略コンサルティングファーム・SHAPE Partnersの顧問に就任しました。

一見すると対極にあるように見える「野球界のレジェンド」と「戦略コンサルティング」。工藤氏がSHAPE Partnersと手を組んだ背景には何があるのか。本鼎談を通じて、前編ではその背景にある想いや工藤氏とSHAPE Partnersが目指す未来を深掘りしていきます。

※後編はこちら:工藤公康氏x SHAPE Partners鼎談(後編):優勝請負人と戦略ファームが解き明かす、「勝てる組織」とは?


未開の地・アジア諸国に見いだす野球普及の可能性

駒宮: 工藤さんと初めてお会いしたのは、青山のイタリアンでしたね。実はあの時、テレビの中のレジェンドにお会いできると思って、緊張でガチガチだったんです…。

工藤: 私自身、そういう自覚はないんですけどね(笑) でも、最初にお会いした時からSHAPEの皆さんが本当に野球を好きなことが真っ直ぐに伝わってきました。これまで企業の講演会や、野球教室という単発の取り組みを通じて、企業の方々とご一緒させていただく機会は多くありましたが、”想い”を共有して、同じゴールに向かって取り組んでいくという深い関わり方は、SHAPEが初めてですね。

井上: SHAPEには野球経験者や熱狂的なファンが多く、「野球界を盛り上げたい」「スポーツの価値を根本から高めたい」という強い想いを持ったメンバーばかりです。工藤さんにその熱量を感じ取っていただけたのは本当に嬉しいです。

工藤: 私も一人の野球人なので、「野球が大好きです」と言っていただけると、やはり嬉しくなります。人と人の繋がりにおいて、結局のところ一番大事なことは”想い”なので、「何かあったら協力したいな」と。想いがないと、一緒に何かを進めていくことは大変ですよね。

駒宮: その”想い”が具体的なプロジェクトとして動き出したのが、この一年でした。特にインドネシア・ジャカルタでは、一緒に現地で野球教室を開催させていただいたり、アジア各国の14歳〜18歳の野球選手を対象にした野球の国際大会である「アジア甲子園」の実現に向け、スポンサー企業の方々との面談に同席いただくなど、多大なるご協力をいただきました。

工藤: ジャカルタでの活動は非常に新鮮でした。「SHAPE Partners 顧問」の名刺を持ってスポンサー企業の方々にご挨拶に行くことは、現役や監督時代にし得なかった新しい経験でしたね。

同行してくれたアジア甲子園主催者の柴田さん(2026年1月付でSHAPE SportsにChief Sales Officerとして参画)は、私の母校(愛工大名電)の後輩ということもあってか、「次はあそこです。ご飯はここです。あとはよろしくお願いします!」と、なかなかのペースで振り回してくれました(笑)

でも、そうやって企業の皆さんと直接お話しさせていただくことができ、楽しかったですね。

井上: アジア甲子園は単なる普及活動ではなく、アジアにおける「野球のインフラ作り」を目指しています。このビジョンは、工藤さんの想いとも重なる部分がありますか。

工藤: 強くあります。今、日本の野球界はメジャーリーグ(MLB)を見ています。確かに世界最高峰の舞台ですが、日本の野球界の発展を考えると、視点を変える必要があります。

ジャカルタなどでは、サッカーやバドミントンが人気ですが、現地の子供たちの身体能力は凄まじく高い。そういった子供たちが日本で野球を学び、プロとして日本で活躍して母国へ帰る。このサイクルを作ることができれば、アジア全体の野球のレベルが劇的に上がっていくでしょう。

駒宮: 「日本が、アジアにとっての『メジャーリーグ』のような存在になるべきだ」というお考えですね。

工藤: そうです。今はメジャーに日本のお金が流れていますが、それと同じ構造を「アジア―日本間でも作っていけるのではないか」と考えています。例えば、NPBに「アジア枠」を作り、育成選手として受け入れる。スター選手が生まれれば、現地のテレビでも試合が放送される、そうすることでアジア各国で野球が広がり、産業としての基盤が整ってくるはずです。

また、日本からアジアへの人材派遣の流れも作ることができると考えています。例えば、引退した日本人選手を指導者としてアジア各国に派遣することで、現地での野球普及を図りながら、選手のセカンドキャリア支援にもつなげることができます。ビジネスの細かいやり方は、私には分かりませんが(笑)、きちんと経済が回る仕組みを確立できるはずなんです。

井上: ただ、現場では課題も多いですよね。現地には道具がないので日本から道具を持っていこうとすると、関税が高かったり、現地にそもそも指導者がいなかったり……。

工藤: そうですね。だからこそ、現地に「下地」を作ることが大事だと考えています。現地では、スローピッチソフトボールが結構人気で女性もプレーしているようなので、そのように誰でも楽しめる入り口から広げていきたいですね。


経営のプロを積極的に受け入れ、経営の安定化へ

井上: 仕組みづくりという点について、メジャーでは会社経営者や弁護士など、異業種出身のGMが多くいますが、日本では元プロ野球選手がGMに就くことが多いというデータもあります。この構造については、どうお考えですか。

工藤: 正直に言うと、経営側と選手たちの間には依然として厚い「壁」があります。経営側が「こうすればいい」と始めたことでも、選手たちからすると「会ったこともないのに、何がわかる」と反発が生じることも少なくありません。

私自身、経営者や経営陣として日頃ビジネスに携わっている方々の話を聞くと、本当に組織構造が複雑で驚きますが、野球の場合は投手、野手、監督と数えるほどしかないんです。そのように複雑な組織構造で先導に立っていた方でさえも、現場との連携がうまくいかないことが多く、これは両者間にある「壁」に対する打ち手が確立できていないからだと考えています。

駒宮: どういうことでしょうか。

工藤:私は、日本の野球界でもGMには、もっと経営のプロを起用すべきだと思っています。野球選手は「今日の勝負」に命を懸けるアスリートですが、GMは3年後、5年後を見据えて「勝つ組織」を設計する役割を担っています。この時間軸の捉え方は、やはりビジネスを経験した人の方が長けています。ただ、同時に現場との「間」を繋ぐGMの右腕が絶対に必要です。

駒宮: ホークスにおける三笠GMと城島CBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)のような関係性ですね。

工藤: その通りです。三笠さんのようなビジネスサイドの論理を理解したリーダーが判断し、実績もあり現場の信頼も厚い城島さんのような人材が、その意図を現場に浸透させていく。この関係性があって初めて、戦略がグランドに反映されます。

井上: 城島さんのような存在が、組織の「ハブ」になっているわけですね。

工藤: はい。加えて、私はGMの意図を理解し、チーム全体に伝えることができる右腕は複数人いるべきだと考えています。メジャーリーグの球団でも、GMには複数の補佐がいて、それぞれがGMの「目」となり「耳」となって現場の情報を吸収しています。そうして集まった情報を基に、GMが戦略的、かつ計画的に判断をする。

こうした仕組みを構築することによって、日本でも安定した経営のもと球団運営ができると考えています。

駒宮:私たちもいくつかのプロスポーツチームを支援させていただいていますが、野球だけではなく、どのスポーツでも経営の安定化は大きな挑戦だと感じています。だからこそ、私たちとしても深く支援していきたいという想いから、昨年スポーツビジネスに特化したSHAPE Sportsを設立しました。

経営の土台が安定すると、チームは新しい施策やチームの強化に果敢に挑戦でき、それがファンの熱狂につながります。その結果、更なる投資の原資を生むという『良いサイクル』の起点になります。この良いサイクルを野球をはじめとしたスポーツで創り出していきたいと考えているので、ぜひ工藤さんにも、引き続きアドバイスいただけると嬉しいです。