
サンリオ・松竹が語る、日本エンタメの現在地と未来を拓く可能性
Entertainment
Interview
2026/07/15
福田 英司 氏 / 株式会社サンリオ 常務執行役員
サンリオに入社以来、海外事業や経営企画などを幅広く担当。現在は、KPI/KGI設定や組織設計、DX、データテクノロジーなどをリード。
片岡 佑輔 氏 / 松竹株式会社 演劇統括部戦略室
松竹にて新規事業、映画宣伝、演劇宣伝、映像のマーケティング、人事戦略を経て、現在は演劇・歌舞伎のマーケティングと予実管理を担当。
藤熊 浩平 / SHAPE Partners 代表取締役 CEO
A.T.カーニー、Boston Consulting Group等を経て、SHAPE Partnersを創業。エンタメ/スポーツを中心に、消費財、ヘルスケア、メディア等の業界において、事業戦略、新規事業開発、マーケティング戦略等のプロジェクトを担当。
大学まで体育会野球部に所属。
北浦 ひな子 / SHAPE Partners Principal
McKinseyを経て、SHAPE Partnersに参画。エンタメを中心に、消費財、小売等の業界において、中長期戦略、マーケティング戦略、新規事業開発等のプロジェクトを担当。McKinsey時代にはベルギーオフィスにも勤務。現在はSHAPEのエンタメプラクティスをリード。
日本のエンターテインメントの第一線を走り続ける株式会社サンリオと松竹株式会社。一見、異なる領域に思える「キャラクターIP」と「伝統芸能・映画」ですが、両者には「ファンの熱量」と「長い歴史」という共通の強みがあります。
今回は、経済産業省が支援する「アカデミー」での出会いから10年来の親交があるサンリオの福田氏、松竹の片岡氏、そして両社の変革を伴走者として支えるSHAPE Partnersの藤熊・北浦が、日本のエンタメの現在地と目指すべき未来について語り合いました。
経済産業省支援「アカデミー」での運命的な出会い
北浦: 本日はお集まりいただきありがとうございます!まずは、福田さんと片岡さんの「出会い」のきっかけから教えていただけますか?
福田: 初めて片岡さんと出会ったのは、2015年に経済産業省の支援のもと運営されていたコンテンツ業界の人材育成を目指したビジネスアカデミーでした。集まっていたのは、エンタメ業界を代表する有力企業の中でも、群を抜いて活躍していた20名前後。その中で私が最年長で、片岡さんが最年少でしたね。
片岡: 募集要項には「部長級・次世代役員候補」って書いてあったのですが、当時役職がなかった私は「なぜ私が行くんだろう?」と思いつつ参加しました(笑)。周りは名だたる企業の凄腕ばかりでした。その中で、私も「松竹」という会社の看板を背負いながらの参加だったので、プレッシャーも大きく、自己紹介の時点でとてつもない緊張感でしたね。
福田: そうですね。当時の仲間の中から、今では企業の社長が2人も出ているので、豪華なメンバーの集まりだったと思います。でも、そんな中で、緊張感やプレッシャーを感じさせないほど片岡さんは当時から誰よりも情熱的で熱心でした。講義では、いつも一番前の席に座り、真っ先に手を挙げて質問していましたし、彼がそのように場を活性化させてくれたおかげで、年齢に関係なく本音で議論できる最高の仲間に出会うことができました。

片岡: 私は当時、映像戦略室で年中、消費者調査やデータ分析ばかりやっていた「データ人間」でした。また一番年下だったこともあり、とにかく色々な方の意見や知識を得られるようにと積極的に参加していました。
福田:そういえば、当時のサンリオの役員が講師としてアカデミーで登壇した際、片岡さんはサンリオの有価証券報告書を3年分読み込んだ上で参加していましたよね。
片岡:他社様の有価証券報告書をあそこまで読み込んだのは、あの時が初めてでした(笑)。
福田:サンリオの社員でもあそこまで細かに有価証券報告書を読んでいる者は、なかなかいません。でもそういう片岡さんの姿勢に感動を覚えましたし、印象的でしたね。
アカデミーに参加する前までは、同じエンタメ企業でも映像系とはつながりが少なかったのですが、アカデミーを通じて共有することができ、互いに良い影響を与えながら、自社のスタンスを変えるきっかけにもなっていました。
野球部の繋がりから、組織の変革を支えるビジネスパートナーへ
北浦: そんなお二人の関係の中に、弊社(SHAPE Partners)がどう関わっていったのでしょうか。
福田: SHAPEの藤熊さんとは、独立される前の2010年頃からの付き合いです。当時、サンリオショップの収益改善プロジェクト等を通じて藤熊さんと出会い、お互い野球部出身という共通点もあったので、その後もビジネスを超え、交流させていただいていました。
藤熊: 私が独立したタイミングで、福田さんから、サンリオさんの中核部門である「デザイン部門」のコンペの機会をいただけたことが、弊社の今に繋がっているので、ありがたい限りです。今では、弊社の柔軟な伴走スタイルやユニークなメンバー構成を評価いただき、各部門の皆様と、様々なプロジェクトをご一緒させていただいています。

福田:最初の縁を繋いだのは私だったかもしれませんが、いつの間にか、サンリオの様々なプロジェクトをご一緒させていただくことになっていました。弊社だけではなく、松竹さんともご一緒していて、そのカウンターパートが片岡さんだったことも驚きでしたね(笑)。
片岡: 実は、松竹がSHAPEさんとご一緒させていただくとなった時、ちょっとした出来事がありましたよね。
福田: そうそう。片岡さんが人事に異動したと聞いていたので、藤熊さんから「今度松竹さんをお手伝いすることになった」と聞いた時、「人事に優秀な片岡さんがいるから繋ぐよ」と連絡をしたんです。そしたら片岡さんから「福田さん、私は人事なので、SHAPEさんの案件のカウンターになることはないです」って返事がきて。
片岡: なのに、いざ蓋を開けてみたら、私がちょうど演劇に異動してSHAPEさんのプロジェクトのカウンターパートになることに(笑)。思ってもみなかった展開に驚きましたが、伝統を重んじる演劇・歌舞伎のマーケティングを推進していくタイミングで、福田さんとも所縁のあるSHAPEさんとご一緒できることも何かの縁だと嬉しく思いました。

北浦: 私も学生時代から松竹の劇場やサンリオピューロランドにはよく通っていたので、プロジェクトでご一緒できるとなり、非常に喜んだことを覚えています。
ライツビジネスの機動力と、グローバル展開への挑戦
北浦:日本を代表する企業のお二人にお越しいただいているので、ぜひ日本のエンタメ産業についてお話しさせていただきたいと思います。サンリオ様は「IP」、松竹様は「伝統芸能・映像」とそれぞれの視点から、今の日本のエンタメの強みと課題をどう見ていますか?
福田: 日本のアニメやIPは、今や「日本を代表する最大の輸出商品」です。特に昨今は、世界的な地政学・関税のリスクで「モノ」が移動しにくくなっている。その中で、移動が容易で現地にアジャストできる「IPのライツ(版権)ビジネス」は、凄まじいパワーを発揮しています。
北浦:最近だと伊藤忠が「おぱんちゅうさぎ」の海外展開を手掛けていたり、3Dアニメ化をしたり、積極的ですよね。
福田:そうですね。最近は、商社も参入していて、彼らにはグローバルに広い流通網があるので、シナジー効果は高いと思います。
片岡: 松竹としても、海外での歌舞伎公演などは古くから行っていますが、正直「ビジネスベースで持続的にマネタイズできているか」と言われると、海外でのビジネスの確立に向けて、まだまだやれること・可能性は多くあり、挑戦しようとしているというのが現状です。
北浦: 私は前職時代にヨーロッパに住んでいたのですが、現地でも日本アニメのTシャツを着ている人を日常的に見かけました。ただ、それを「リアルなエンタメ体験」や「持続的なビジネス」に昇華する間口は、まだまだ広げられると感じています。

片岡: エンタメの良いところは、メーカーのような「限られたパイの争奪戦」になりにくいことだと思っています。福田さんともそうですが、エンタメ業界内で情報交換をして「一緒に業界全体を盛り上げよう」という気概があるので、海外展開に成功されているサンリオさんから、成長戦略の描き方や、SHAPEさんのような外部との協業を通じた変革を学ばせていただけたら嬉しいです。
デジタル全盛期だからこそ輝く「リアルエンタメ」の価値
北浦: 生成AIの台頭やメタバースなどデジタル化が進む一方で、お二人は「ライブ(生)の体験」に強い確信を持たれていると感じます。
福田: AIの時代に入ったからこそ、「誰もができる自動化」の対極にある「生身の人間がハンドメイドで作るもの」の価値が爆発的に上がっています。時計の世界で、デジタル時計が普及した後に高級アナログ時計が見直されたのと同じです。
片岡: 歌舞伎やライブパフォーマンスは、まさにその極みですね。一時期は「メタバースに行く」と言われていたトレンドが、今は完全に逆流している。劇場や映画館で数時間、スマホを触らずに没入する体験や、WBCのように「その瞬間しか味わえない旬のライブ」に価値が集中しています。
福田: 今、アメリカのNBA(バスケットボール)の一番安い席は、日本円で約10万円です。それでも現地の人は、そこに価値を見出しており、さらにはエンタメに何百万とお金を払う。「本物が見られるワクワク感」「体感を共有する熱量」を持つLBE (※)が、これからの主役になるでしょう。 サンリオがピューロランドなどのリアル体験に注力しているのも、松竹さんが演劇を守り続けているのも、これからの時代に一番強い武器になるからです。
片岡:福田さんのおっしゃるように、ライブパフォーマンスの一つでもある歌舞伎は、実は現代の「推し活」にものすごくフィットしています。歌舞伎俳優は5歳前後で初舞台を踏み、80代になっても現役で舞台に立ち続けます。つまり、「1人の推しを80年間、親子3代で応援し続けられる」という、世界でも稀に見る超・高LTV(生涯顧客価値)なエンタメです。

北浦: 歌舞伎は江戸時代から続く推し活の元祖であり、何十年にわたって役者の成長を見守ることができる、また役者同士の関係性も楽しむことができるというのは、他にはない歌舞伎ならではの強みですね。
片岡: 今、松竹では「歌舞伎座U30当日半額チケット(30歳以下は当日半額)」を導入し、若い世代へのアプローチを強めています。アニメや2.5次元舞台、アイドルなどの「推し活」をされている方の新たな受け皿として、「次は歌舞伎を推してみませんか?」という提案をしていきたいですね。
日本のエンタメの活性化、5-10年後に描く未来
北浦: 最後に、これからの5年、10年を見据えた未来への展望をお聞かせください。
片岡: 松竹(演劇)としては、今20代〜30代の若い歌舞伎俳優たちがものすごく充実しています。同世代の方々が、彼らを気軽に見に来て、そこから80歳になるまで一緒に人生を歩んでいけるようなファンの導線・仕組みを作ることが、これからの5年、10年の目標です。私自身、彼らの活躍が楽しみで、未来は明るいと思っています。
福田: サンリオは「総合エンターテイメント企業」への舵を切り、グローバル体制を整えました。私たちのキャラクターは、「変化適応能力」が非常に高い。アメリカ、中国、東南アジアなど、それぞれのローカルに溶け込み、世界中の子どもたちがあらゆる場面でサンリオに触れ、笑顔になれる「サンリオ時間」を増やしていきます。
そして、個人としてやりたいのは、「サンリオのカルチャーのデジタル資産化」です。

北浦: カルチャーの資産化、ですか。
福田: 会社が急拡大し、キャリア入社や新入社員が増える中で、「業績が芳しくなく苦しかった過去の時期」を知らないメンバーが3分の1を超えました。こうした過去のサンリオに関するカルチャーが薄まるリスクがある今、先輩たちが何を大切にしてきたかという歴史を、「語り部」の記憶に頼るのではなく、AIも一部活用することで会社の資産として残していきたいと考えています。これは私が現役時代に成し遂げたいことの一つですね。
片岡: 私自身、人事をしていた経験から、エンタメ業界を支える人が共通して持っているのは、「非合理的なまでの好きという情熱」です。映画のエンドロールに自分の名前が載るだけで、泥臭い苦労がすべて吹き飛び、また明日からも泥臭く頑張れる。そんな情熱を持った人が集まると、業界全体がより良くなると思うので、そういう方々に魅力的に思っていただける業界にしていきたいですね。
藤熊: お二人の熱い想いに改めて刺激を受けました。我々SHAPE Partnersとしても、お二人の会社、そして日本エンタメ界に貢献できるよう、引き続きご一緒させていただければ嬉しいです。本日は本当にありがとうございました!
※LBE = Location-Based Entertainment。テーマパーク、ミュージカル・ショー、移動式屋内遊園地など、ある場所に赴くことで体験できるエンターテイメントの意。

